ただいま
ほんの少し前まで、
楽しい音楽が流れる、カラフルな世界に住んでいました。
目の前には、大きな長い道が続いていました。
その道の向こうに何があるのか、
誰よりも早く知りたいと思いました。
周りの人が注意するのも聞かず、
急に飛び出したり、近道に飛び移ったり、
とにかく前へ前へ進もうとしました。
ある日、とうとう、真っ暗な世界に落っこちました。
そこは、月の光も、太陽の光も届かない、
冷たくて暗い世界でした。
どんなに目を凝らしても、自分の姿さえ見えません。
どんなに耳を澄ましても、物音1つ聞こえません。
自分の声さえ、失ってしまったことに気がつきました。
それでも、なんとか元の世界に戻りたいと、
泣いて暴れていました。
力尽きて、全身の力を失いました。
すると、どこからともなく、小さな声が聞こえてきました。
その声を聞いているうちに、
体の表面が溶けていくのを感じました。
溶けていく感じとともに、
目の前がぼんやりと明るくなってきました。
さらに明るくなるにつれて、
体の中にしっかりとした感覚が戻ってきました。
おかえり。久しぶりだね。
心の奥から、そんな声が聞こえた気がしました。
ただいま。久しぶりだね。
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